2009年08月27日
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面白ショートショート『マグロ苦労の助』

Written By: 遠野秋彦連絡先

 あるところに、マグロ苦労の助という苦労人のマグロがいました。

 マグロ苦労の助は、魚類という被差別階級に生まれたために子供時代からいじめられて苦労しました。しかし、その苦労に負けず、必至に勉強を続けました。

 ですが、マグロ苦労の助には受難が続きます。というのは、マグロの目玉はDHA豊富で、食べれば健康美容に良く頭も良くなるという噂が世の中に広まり、マグロの目玉ブームが起こったからです。

 マグロ苦労の助が図書館で勉強していると、「マグロ苦労の助、出ておいで。出ないと目玉をちょん切るぞ」などとはやし立てる子供達もいました。

 それどころか、クラスメートの教育ママの中には物欲しそうにマグロ苦労の助の目玉をじっと見ている者達までいました。子供に食べさせれば成績が良くなると思っているかのようでした。

 しかし、マグロ苦労の助はその逆境をはねのけ、超一流大学へ合格し、国家のエリート街道を歩き始めました。

 そうなれば、周囲が放っておきません。マグロ苦労の助は魚類ですが、女の子にももてました。

 もちろん、それで勉強に手を抜くマグロ苦労の助ではありません。

 しかし、とあるパーティーで天下の大美女と名高いお嬢様を見ると一目惚れしました。マグロ苦労の助は、魚類など相手にするはずがないという周囲の制止を押し切り、必至にアプローチしました。

 その結果、ついに大美女とのデートに成功しました。

 さっそくプロポーズしたマグロ苦労の助に対して大美女は答えました。

 「わたし、もっと美しくなりたいの。あなたのその目玉を片方くれたら、結婚してあげてもいいわ」

 マグロ苦労の助は頭の中が真っ白になりました。結婚はしたいが、ここまで大切に守り抜いた目玉も大切です。

 さっそく片目を失うとどうなるかマグロ苦労の助は調べましたが、距離感を失う等の苦労が多いことが分かりました。

 これまで苦労して生きてきたマグロ苦労の助ですが、更なる苦労を背負い込むのは御免でした。

 マグロ苦労の助は一ヶ月の間悩み続けましたが、性欲あり溢れる若者なので、ついに片目を差し出して結婚することを決断しました。

 さっそく大美女のところに駆けつけたマグロ苦労の助が見たものは、太く長く反り返った黄色い物体でした。

 「ごめんね。もうDHAやマグロの目玉の時代じゃないの。ブームは終わったの。今はバナナダイエットの時代なの。そういうわけだから、サヨナラね!」

 そしてバナナは言いました。

 「はっはっは。2つしか目玉のないマグロより、房にいっぱい実があるバナナの方が彼女を満足させられることを保証するよ!」

 しかし、すっかり冷静に戻ったマグロ苦労の助はすぐに計算しました。これは、バナナダイエットブームが終わる前に全て食べ尽くされてしまうな、と。

(遠野秋彦・作 ©2009 TOHNO, Akihiko)

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